保護者から、「先生は独身なのに、子育てをよくご存知ですね」と言われる。
男として、それを褒め言葉と受け止めていいのかわからないが、
確かに子どもの成長段階に合わせて接することは、
実際に子育てをしてきているのだから、わからなくはない。

私ももう歳を感じるほど教員生活も長くなってきた。
もちろん結婚は考えたこともあったが、独身を貫いている。
一人娘のアヤカを育てるために。


教員として何とか落ち着き始めた頃に、幼い彼女を引き取った。
アヤカはテレビの横に立てかけた写真でしか母親を知らない。
写っているのは確かに彼女の母親だが、私の妻ではない。

複雑な事情があるように思えるが、単に身内で引き取れるのが私だけで。
押しつけられたわけではなくて、自ら手を挙げた。
もちろん彼女のためにもいいだろうと思ったから。

初めは「子どもの面倒を見るだけ」と高を括っていたが、
まだ物心が付いていない子を、 子育てについて何もわかっていない私が、
手探りで生活をスタートさせたのはあまりにもお粗末。
クラスで何十人の子どもをまとめるのとは勝手が違った。
とにかく、この娘を悲しませることだけはしたくない、とだけ考えて過ごした。

成長したアヤカは危なっかしいくらいにぽやーっとしていて明るくて、
本当に私が育ててきたのが不思議なくらいに素直な子だ。
反抗期があってもよさそうなのに、そんな素振りは見せたこともない。
たまに口を利いてくれないときもあるけれど、1日経てばケロッとしている。
私の実子ではないことをわかっていて、
彼女なりに私に気を使ってくれているのだろうか。

そして私に余裕ができたのか、アヤカが見ていて可愛い、
いや、とにかく一挙手一投足が愛くるしい。
これが父性というものかと感じるようになった。
気が付いたら冬のボーナスでビデオカメラも買っていた。
いつかは私の元を離れることはわかってはいても、
アヤカの部活動での活躍とかを残したいと純粋に思い始めた。
それだけに止まらず、こうして文章で残そうと思ったのは、
親バカもここに極まり、といった重症なのかもしれない。
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