(堀河院御時の艶書合によめる) 返し

音にきく 高師の浜の あだ波は
 かけじや袖の 濡れもこそすれ

             ――祐子内親王家紀伊 「金葉和歌集」


<直訳>
堀河天皇の御代に開かれた艶書合の会で詠んだ返歌

評判の高い高師浜の、いたずらにむなしく打ち寄せる波には、
かからないようにしないといけませんね。
袖が濡れてしまってはいけませんから。

それと同じで、浮気の名高いあなたに心をかけることはありますまい。
後で涙にくれて袖を濡らしてはいけませんから。



・背景や文法など
「音」と「波」は縁語。
「波」・「かけ」・「ぬれ」は縁語。

「たかし」は「高し」と「高師」の掛詞。
「かけじ」は「波はかけじ」と「心にかけじ」の掛詞。
「ぬれ」は「波でぬれ」と「涙にぬれ」の掛詞。

「たかしの浜」
大阪府高石市(旧:和泉国)にある高師浜のこと。
ここでは南海高師浜線の高師浜駅付近から堺市の浜寺までの一帯を指す。

「あだ波」
いたずらにむなしく打ち寄せる波のこと。

「もこそ/もぞ」
係助詞「も」+係助詞「こそ/ぞ」+結びの語(連体形/已然形)で、
”〜したら大変だ”、”〜しては困る”の意味となる。


さて、堀河院艶書合(えんしょあわせ。康和4年/1102年)にて詠まれた歌です。
艶書とは、ここでは恋心をつづった詩のこと。
そして艶書合は、男性から女性へ恋の歌を贈る。それに対して女性が返す。
その優劣を競い合う歌合わせのことです。


さて、詞書にもあるように、この詩は返歌なので、
先に呼びかけの詩があるわけで。

人知れぬ 思いありその 浦風に
 波のよるこそ 言はまほしけれ

               ――藤原俊忠(29歳)

<直訳>
私はひそかにあなたのことを思っています。
越中の有磯海の浜辺に激しい浦風に乗って波が押し寄せるように、
恋心がしきりに寄せる夜にこそ、あなたに打ち明けたいものです。


・文法など
「ありその」は、「(思いが)ありその」と「荒磯の」の掛詞。
「よる」は「夜」と「(波の)寄る」の掛詞。

「ありそ」
荒磯(荒い波が打ち寄せる浜辺)は歌枕として、
ここでは特に越中富山湾のことを指す。


と、まず藤原俊忠が祐子内親王家紀伊に詠んだ。
この歌に対し、後朱雀天皇の皇女祐子内親王のもとに仕えた女房、
70歳の祐子内親王家紀伊の返歌は上の通り。



今回の<意訳>は、恋の気持ちを歌われたものではないので、割愛します。
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